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羅府新報新聞社が毎年、新年号の特集のために、
一般から文芸を募集しています。
この度、ドクターゆう子の詩が佳作入選いたしました。
この作品に関して、羅府新聞編集部の許可を得て、
ここに紹介したいと思います。
許可なく転載、転用されませんよう、お願いいたします。
深夜の触診
西山ゆう子
忙しい1日だった。
午前3時。
滑り込むようにベッドに入る。
4時間後には起床して、
また忙しい1日が始まる。
早く寝なくちゃ。
もう半分、夢の中。
気がつくともう秋。
部屋の中は寒い。
ミトンズが布団の中にもぐりこんできた。
いつものように、右の肩から。
私の右腕と腰の間でUターンして、
顔を私に向けて横になった。
夏の間は暑かったから、
ミトンズは私の足元で寝ていた。
数ヶ月ぶりの、布団デートだね。
ミトンズ。
うつろな意識で、眠りに落ちる私が、
ミトンズの背中に手を回して、はっとした。
細い。。。
痩せた。。。
こんなに痩せちゃったの?
いつから?
16歳の白黒猫ミトンズが、
この夏、水をよく飲むようになり、
気になって検査したら、
初期の腎臓疾患だった。
老猫にはよくあること。
腎臓食に変えて、様子をみりゃいい、と思った。
ちょっと痩せたかな、と思ったけど、
体重計はだいたいいつも同じ。
白髪が目立つようになったけど、
年だから自然なこと、
軽く流していた。
それよりも、
毎日、毎日、
もっと重症な犬猫たちが、
次から次に、
私の病院にやってきて、
忙しかった。
だから自分の猫のことなど、
半分忘れていた。
ミトンズがゴロゴロと喉を鳴らす。
私は布団の中で、
ミトンズの背中、わき腹、お腹を触る。
目をつぶって、ゆっくりと触診する。
細い胸。薄い筋肉。
手に触れるあばら骨。
痛々しくて、思わず手を止める。
ここのいるのは、
私の腕の中で甘えているのは、
私の知っている自分の猫じゃない。
一匹のやせ細った老猫。
腎臓を患った病猫。
いつも、診察台の上の老猫を触って、
飼い主さんに、エラそうに私は言っている。
「痩せましたね。筋肉が落ちています。腎臓が心配ですね。」
「これから腎臓病との戦いです。」
その言葉を、自分に向けて言ってみる。
「もう長くはないかもしれませんね」
深夜3時の冷えた部屋で、
老猫はごろごろと甘える。
布団の中で。
私の右腕の中で。
もう長くはないかもしれないと、
自分で自分に言った瞬間、
急に胸がいっぱいになった。
涙がこぼれて、枕に落ちた。
ミトンズ。ごめんね。
ちゃんと見てあげられなくて。
私が「老猫宣告」した猫の飼い主さんたちは、
私に「もうあまり長くないかもしれませんね」と、
言われた飼い主さんたちは、
こんな苦しい、こんな切ない思いをしていたのだろうか。
私はそんな、飼い主さんの繊細な気持ちを、
どこまで理解していたのだろうか。
ミトンズの体は細いけど、
暖かい。
ミトンズは小さいけれど、
その存在は大きかった。
私をいつも支えてくれた。
目を閉じたまま、
私はミトンズを優しくなでる。
「自分の猫だから」という甘えから、
いつもあなたを見ていながら、
見ているようで、見ていなかった。
一度だって、まじめに触診したことはなかった。
深夜の布団の中で、
真っ暗な部屋であなたを触診して、
ようやくあなたが、病猫であると知った私。
獣医として、失格だね。
飼い主として、失格だね。
しんと寒くなった深夜の部屋。
午前3時。
右腕のミトンズは、
あくまでも暖かい。
彼女の鼓動が伝わる。
彼女の優しいゴロゴロが伝わる。
子守歌のように、ミトンズの優しさに包まれて、
私は眠りに落ちる。
2人で抱き合って、
眠りに落ちる。
もう長くはない命を、
確かめるように。
残されたミトンズとの時間を、
慈しむように。
細い体の中の魂を、
愛おしむように。
2011年5月25日
ミトンズ 永眠する
私の膝の上で
私の腕の中で
末期呼吸もなく
眠るように、
すうっと眠りにつく。
17歳と4ヶ月
ありがとうミトンズ。
17年間、一緒にいてくれて、
私の家族でいてくれて、
ありがとう。ありがとう。
ドクターゆう子から お礼の言葉
この度、入選の通知を受けまして、思いがけないことで、大変驚いております。
歴史のある羅府新報であるだけに、この入選を厳粛に、そして非常に光栄であることと受けとめております。
この詩は、自分の飼い猫の老いと病に対する感情を、特に戸惑いと、 寂しさについて、自然に綴ってみたものです。
今後、来院してくださるペットと、飼い主さんの気持ちに、一歩でも近づくことができますよう、気持ちも新たに、毎日、臨床医として 努力を続けたいと思っております。
2011年1月吉日
ビレッジ動物病院
西山ゆう子
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